谷崎とその妻松子が共に眠る墓(法然院)

谷崎潤一郎の作風
 初期は恥美主義と呼ばれる、道徳功利性を廃して美の享受・形成に最高の価値を置く西欧の芸術思潮の一派とされていました。ですが、彼の作品は題材、文体、表現など生涯にわたって様々に変化していきました。また、現在のミステリー・サスペンスの先駆けとなるような、活動的な歴史小説、口伝・説話調の幻想譚やグロテスクなブラックユーモアなど、娯楽的ジャンルにも多くの作品を残しています。
 谷崎は情痴や時代風俗などのテーマを扱う通俗性と、文体や形式における芸術性を高いレベルで融合させた純文学の秀作によって世評が高く、「文豪」「大谷崎」と称されました。

「寂」の文字にこめられた意味
 当店の東側にある法然院には、谷崎と妻の松子の墓があります。墓石には「寂」という文字が刻まれていますが、これには一体どういう意味があるのでしょうか。
 仏教において、「寂」の本義は「亡くなったこと」ではなく「煩悩が消え去った」
状態を指します。しかし、生きている間に煩悩を消し去ることは容易ではありません。
なぜなら、生きるとは様々な欲を満たし続けることとほぼ同義だからです。この煩悩が
消え去るタイミング、それこそが死を迎えた時です。
 谷崎は執筆スタイルもさることながら、実際も複雑な女性関係等のスキャンダルが
多い人物でもありました。このことからも自分自身の煩悩に忠実なことが伺えます。
そのため墓石に「寂」と刻むことで、死後は煩悩を離れ悟りの境地に入ることを示して
いるのではないかと考えられます。